磐梯吾妻スカイラインで奇跡の晴れ間を味わったその後、私は気を抜いてしまった。
そのまま下山し始めたが、再び視界を奪うような霧の世界へ逆戻り。
だが、さっき安心してカッパを脱いだばかりだった。
止まって再装着する余裕も場所もなく、ただ霧の中を慎重に下る。
寒さがじわじわとインナーに染み込んでくるが、ナビのおかげで不安はない。
こうした状況でこそ、テクノロジーに助けられていると感じる。
やがて視界が開け、「道の駅ふくしま」に到着した。あの特徴的な屋根が迎えてくれる。
道の駅ふくしま──デザインと暖かさの交差点
ここは建築士の勉強をしている時にも建築事例として出題され気になっていた道の駅ふくしま。


当初の計画ではこの時点で11時ごろを目指していたが、AIのシミュレーションによると昼くらいになると指摘された。
実際ここについたのは11時40分で、自分の計画よりAIによる計画のほうが近いことに驚く。
今度からAIにも頼ろうと思った瞬間だった。
しばしの休憩後、福島大笹生ICから三陸道へと向かう。目指すは岩手・山田町。
三陸道──防潮堤と給油の計算
三陸道は震災後に整備された無料高速。
長く快適な道が続くが、給油所や休憩所が極端に少ないのが難点だ。
XJR1200のタンク容量を思い出しながら、次に入れるタイミングを慎重に探る。
途中、「道の駅さんさん南三陸」で一度休憩を入れる。
ここでは、あの日の記憶がそのまま残っていた。




壊した建物の残骸、展示された津波の高さ。
メディアで報じられることは少なくなったが、震災の影響をまざまざと見せられると同時に、現地に立つと胸の奥が締めつけられる。
再び三陸道に戻ると、視界には延々と続く防潮堤と、真新しい住宅群が広がる。
一方で、空き地が目立つエリアも多い。
おそらくここもかつては集落だった場所なのだろう、と実感する。
山田町の夜──居酒屋でのひととき
ようやく山田町に到着。今夜は港近くのうみねこ温泉湯らっくすに宿泊する。

ツーリングでは比較的ホテルが多いが、今回はとにかく泊まれるところを優先して選んだ。
ところがこれが大変快適だったので、別記事でまた紹介しようと思う。
荷を解いてひと息ついたあと、近くの防潮堤や海岸を見に行く。
この海が津波となって街を襲ったとはとても思えないほどの静かな海だった。
夕食は宿の受付で教えてもらった地元の「ふくいえ」という居酒屋へ。
カウンターで頼んだのは、焼酎の湯割りとタコの刺身、そしてタナゴのたたき。


これらをつまみに、焼酎を飲む。
女将さんや隣の常連客と話すうち、自分が広島から来たと聞いて、「これも食べてみな」とどんこのタタキを少し分けてくれた。
肝を混ぜて作るというからもっとクセのある味を連想していたけど、口に入れた瞬間、驚いた。
とろけるような甘味と深い旨味。これは凄い。
この地方へ来るなら、ぜひ「どんこ」の名を覚えておいてほしい。
締めには、たまごかけ定食。素朴だが、旅先で食べるこの一杯は格別だった。
温泉宿の醍醐味か?──ツボ風呂で締めくくる一日
部屋に戻り、少し酔いをさましてから温泉へ。
大きなお風呂はかなり熱めだったが、それぞれの温度に設定されたツボ風呂につかると全身の疲れが湯に溶けていく。
ああ、これだ。
旅の醍醐味は、こういう一瞬の解放にある。
湯冷めしないうちに布団へ。
明日には天気が回復するという。魹ヶ崎の灯台を目指す朝が、静かに待っていた。
【走行メモ】
走行距離: 433km
給油量: 34.39L(うち前日分7L)
実質燃費: 約15.8km/L
次回【第4話】では、いよいよ本州最東端「魹ヶ崎」へ。震災と向き合いながら、海と空の間を駆け抜けるソロツーリングの続きへ──。