阿蘇の朝。テントは夜露でしっとり濡れていた。
乾くのを待ちながら洗面、着替え。ボーイスカウトの経験が地味に活きる瞬間。
前夜、酒を酌み交わしたXJR1200夫婦からコーヒーをいただいた。
前の晩、どうやってこの荷物を2人乗りで運んでるのかと訊くと、「荷物の上に座ってるんだよ~」と笑っていたが、二人乗りでテントや寝袋、着替えやコーヒーセットをどうやって運んでいたのか、今でも半信半疑である。
ホントに可能なのか??
朝の阿蘇は車が一台もいなかった。
貸し切りのワインディングをXJRで駆け上がる。見渡す限りの草原と山並み。あの時間の爽快感は忘れられない。

この日は「トトロのバス停」を見に行くつもりだった。
が、道を間違えて宮崎県の延岡へ。大分方面とは真逆。
延岡に出た頃携帯の充電が切れた。まだJフォンだった時代。
近くのショップに飛び込んだら、店員さんが裏から中古の充電器を持ってきて、カッターで端子を削って対応してくれた。「出っ張り削れば刺さるんですよ〜」って。旅先のこういう親切が嬉しい。
ルートを南に取ったのは理由がある。海沿いを走るなら時計回り。絶景スポットで気軽に停まれるし、対向車を気にしなくて済む。ツーリングは景色と安全がセットだ。
宮崎のシーガイアを脇目に走る。


いよいよ佐多岬が射程距離に入った時には、すでに17時も回ったころ。
この日のゴールは佐多岬の予定だったが、17時を過ぎて断念。
観光地の閉門時間は学生時代の京都で学んだ。無理せずキャンプ場を探す。これが正解だったと、翌日思い知ることになる。
キャンプツーリングのいいところは、予定変更が自由なところ。ホテルみたいに予約も時間も縛りもない。自由に走って、好きなときに眠れる。
途中の野営場には数人のライダー。阿蘇の夜と比べると少ないが、それもまた心地いい。
温泉に入り、近くのスーパーで酒とつまみを調達。
驚いたのは、日本酒が一切なかったこと。すべて焼酎。しかも芋。
普段は麦や蕎麦派なのに、この日は芋で乾杯。地元の酒を飲むのも旅の楽しみ。
この夜は旭川出身のハーレー乗りが印象的だった。
「今でいうニートだね」と笑う彼は、仕事を辞めて沖縄から北海道を目指している最中。
「ハーレーなら誰か助けてくれるから」「2ストはオイル買いながら走るのが面倒」
その言葉に妙な説得力があった。
「もう3泊目。ここを拠点にしてる」
混雑を避けて、動かず楽しむスタイル。達人かと思った。
夜はランタンを囲んで、それぞれの旅の理由やルートを語り合った。
お気に入りのジャンバーをランタンで焦がしたのもこのとき。焚き火と焼酎の夜。
空気が湿っていた。天気が崩れそうな気配。
